特別講演 総務省総合通信基盤局 電波部長 渡辺克也氏
5GとWi-Fiで2020年ワイヤレス社会の実現へ
5月10日に開催されました無線LANビジネス推進連絡会の第12回総会を受けて、総務省電波部長の特別講演が行われました。「2020年のワイヤレス社会実現に向けて」と題した講演の要旨を紹介します。
総務省総合通信基盤局 電波部長 渡辺克也氏
Wi-Fiなしに5Gの発展はない
今日は、ワイヤレスで生活が変わる、ビジネスが変わる、クルマが変わるという変化をお話しします。5Gは万能のような誤解も一部にありますが、申し上げたいことは5GだけでなくWi-Fiも必要であり、Wi-Fi無しには2020年のワイヤレスは完成しないということです。
ご承知のように、今、国をあげて、2020年に向けて、4Gの次の「5G」の実用化を進めていますが、これからのワイヤレス社会の実現には、Wi-Fiなしに5Gだけでは絵に書いた餅になるということです。
まず、「ワイヤレスで生活が変わる」についてお話いたします。携帯電話発展の歴史を見ますと、1968年のポケベルから始まり、自動車電話、ショルダーホン、ムーバなどアナログ携帯電話などを経て、iモードの登場、3Gでのグローバル化、2008年のiPhone登場などとエポックが続いてきました。
特にWi-Fiがスマートフォンに搭載されたことは極めて重要です。トラフィックのオフロードからブロードバンドの基盤を支える意味でも、Wi-Fiの役割は非常に大きなものでした。
現在は、2010年に開始されたLTEから4Gへの発展を経て、5Gに向かっています。これまでは、電話(音声)とブロードバンドでコミュニケーションが変わり、ビジネスが変わってきましたが、基本的に人と人の「コミュニケーション」を行うためのツールでした。5Gでは、モノとモノを結ぶIoTの方向に大きく変わろうとしています。
ふりかえってみますと、移動通信システムは、第一世代からおよそ10年周期で進歩してきました。この間、最大通信速度は30年間で約10,000倍になっています。iPhoneが出てまだ10年しか経っていませんが、人々にとってスマートフォンはずっと以前からある感覚で、もはやスマートフォンのない生活は考えられません。
こうした進化の基礎にあるのは、ICT分野での急速な技術の進化があります。半導体の集積度が「18か月で2倍」というムーアの法則でコンピューターのスピードは10年で100倍に進化を遂げているのをはじめ、通信網の帯域幅の進化の「ギルダーの法則」や「ストレージの法則」「メトカーフの法則」などが貫徹し、それらがまた、今日のAI、ビッグデータの基礎となっています。
5Gの3つのポイント
5Gは世界各国・地域で取り組みが進められていますが、ご承知の通り、①最高伝送速度10Gbpsの「超高速」、②接続機器数100万台km2という「多数同時接続」、③1ミリ秒の遅延という「超低遅延」を特徴としています。
5Gは、これまでのコミュニケーションツールとしてだけではなく、AI/IoT時代のICT基盤として期待されています。
特に大きな特徴は②と③です。多数同時接続の機能は、家電・車など身の回りのあらゆる機器(モノ)がつながる環境を実現します。IoTの同時接続の数が、例えば、この部屋の中でも100倍になります。
超低遅延は、遠隔地にいてもロボットの操作をスムーズに行うことができるようになります。いかに、大きな可能性をもたらすか分かると思います。
大事なことは、この5Gととともに、Wi-Fiでどうカバーするかです。4G/LTEだけで今日のモバイル/ワイヤレス時代が実現できているわけではありません。家庭、オフィス、街中などがWi-Fiでつながっているからこそ、現在のLTEによるサービスが成り立っているのであり、今後、ますますそうなります。Wi-Fi環境がワイヤレス環境・モバイルの基盤を支えているのです。
この5GとWi-Fiで、IoT時代の本格的到来なのです。そして、産業構造そのものが変わり、モバイルビジネスが変わる局面を迎えているのです。
IoTとは何か
二番目のテーマ「モバイルビジネスが変わる」に移ります。ここで改めて、IoTとは何でしょうか。
それは、様々なモノがインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組みといえるでしょう。例えば、電力でもスマートメーターにより詳細に電力消費の把握が検針よりも簡単になります。すると、オフピーク時にお湯を沸かすなどの制御が可能になります。IoTは生活にも徐々に浸透していきます。
あるいは、自販機がネットでクラウドにつながると、高機能化と省電力化を合わせることで、商品補給をタイミングよくできたり、電子マネーの利用が可能になったり、また、ディスプレイに災害情報や各種情報を提供することができるようになったります。
IoTによる産業構造の変化が起きます。その時、日本はこれまでと違って、自動車分野、産業機器分野、ホームセキュリティ分野、スマートメーター分野、その他IoT分野など新たに加わる産業領域で、日本が得意とする分野で強さを発揮することが必要であり、またできるようになるでしょう。スマートフォン・端末にとらわれない、新しいビジネスモデルが必要となっています。
ヨーロッパでは、自動車、工場・製造、エネルギー、医療・健康、メディア・エンターテイメントなどの分野で重点的な利活用分野を想定して取り組んでいます。EUとして、新しい世界でサービス、プラットフォームを作ろうとしています。
どのような企業と手を組んでどのような新しいビジネスモデルを組み立てるのかが課題となっており、わが国の企業・組織の真価が問われていると考えています。
Wi-Fiの重要性
さて、2020年のワイヤレス環境を考える時、Wi-Fiの役割を考えることは不可欠です。第一期/高速ワイヤレス、第二期/携帯オフロード、第三期/企業・自治体利用を経て、第四期/社会基盤化に入り、Wi-Fiは今や社会の基盤としてあらゆる地域や用途に利用が拡大する段階です。今後、防災、観光、行政・街づくり、学校・教育、オリンピックなどますます広がって未来を創り出していくでしょう。
2020年のワイヤレス環境は、5GとWi-Fiで実現することになります。今後、あらゆる利用シナリオでユーザーが満足できる通信品質が求められており、超高速、多数接続といった様々な要求条件での対応が求められています。5G、Wi-Fiなど様々な無線システムによって構成されるヘテロジニアス・ネットワーク構成となることが想定されています。
自治体などにおいても、単におもてなしだけでなく、地域ならではのビジネスを模索しており、そこでWi-Fiが5Gとともに重要となります。IoTは有線だけではできません。特に工場内ではWi-Fiの役割は大きいでしょう。
現在、5GHz帯無線LANの使用周波数帯の拡張に向けた検討を進めています。新たな周波数帯でのルール作りが必要となっています。是非とも、皆さま方のご協力をお願いしたいと思っています。
Connected Car社会の実現へ
三番目のテーマ「クルマが変わる」に入ります。
ワイヤレス(5G)でタイムラグを感じることなくリアルタイムなやりとりが可能になり、自動走行やConnected Car社会の実現が期待されており、これにより、まさにクルマが変わるということです。
「電波の自動走行における活用」は、走行速度や交通環境にあわせて様々な自動走行を行う場面が想定されます。まず電波による「認知」は、高速走行や低速走行・渋滞、駐車など様々な走行状態によって変わるわけです。そして、自動走行車の「判断」、「操作」へと活かされるわけです。
自動走行にはレベル1からレベル4まで4つの段階あり、例えばレベル4では、ドライバーそのものが存在しなくても動作する完全自動走行システムとなります。その実現に向けて関係省庁と連携して、総務省も取り組んでいます。
自動走行の実現に向けた一つのポイントは、「ダイナミックマップ」です。刻々と変化する動的情報も含んだ高度な地図データベースであり、自動走行には不可欠な構成要素となります。GPSとの補完により、GPSの精度が十分ではない環境下でも「ダイナミックマップ情報」と車両に搭載されている「センサー情報」を合わせて、自車の正確な位置推定を行うことができます。見えないところに人がいることを認知するとか、車にどのように情報を渡すのかというと、やはりワイヤレスの出番となるわけです。
これまでの自動車はスタンドアローン的でしたが、これからはネットワークを使うことが当たり前になります。「クルマ×ネットワーク×データ×AI」によるConnected Car社会では、ネットワークとクルマがつながるのが当たり前になり、新たな価値やビジネスが創出される安全・安心な社会が創出されることになります。
これまではハードウエアとしての車両が産業の中心でしたが、今後は「モビリティサービス」が新たな付加価値の源泉となる可能性があります。
ハードウエアからソフトウエアへの価値の移行ということについて、車メーカーや車を販売しているところも関心を持って取り組むことになります。モビリティサービスを提供する「モビリティサービスプロバイダー」への転化です。サービスを動かし、ビジネスに活かすやり方への転換です。
Connected Carは、高齢運転者や過疎地の交通問題や運転者の疲労・感情コントロールの解決に貢献したりすると同時に、AIを組み合わせて、保険、メンテナンス、車の補修、高齢者対応、ネットワークなどで新たなビジネスを生み出すことでしょう。
Connected CarはIoTのドライビングフォースであり、将来有望な市場です。戦略的にConnected Carの普及推進に取り組み、わが国の優位性を活かして伸びる市場を確保する必要があると考えています。
こうして、ワイヤレスで、「家電」、「クルマ」がつながり、「社会全体」がつながる時代が来ます。ワイヤレスはIoT時代の基盤技術であり、我々の生活に不可欠なスーパースマートインフラになると考えます。
2020年のワイヤレス社会実現に向けて
さて、最後のテーマ「2020年のワイヤレス社会実現に向けて」に来ました。
ワイヤレスは生活、モバイルビジネス、クルマなどあらゆる分野に「変革」をもたらします。ワイヤレス技術の普及により2020年の我々の生活は大きく変わります。
スポーツ・エンターテイメント分野、医療分野、ライフ分野(買い物、地方での暮らし、街歩き)、ワークプレイス分野(農林水産、建設分野)などで様々な広がりが想定されています。
それぞれで様々な研究、トライアル、取り組みが行われています。これらによって、本当に大きく我々の生活と社会が様々なシーンで変わっていくことでしょう。
最後に、「ICTによる幸せの提供」について、触れさせて下さい。
WHOの資料によると、「一人あたりのGDPが高くなると、うつ病・躁うつ病の人が増える傾向があるのではないかという調査データがあります。イスラエル、カナダ、米国など豊かさの高い国は相対水準として全病気比でうつ病・躁うつ病の比率が高いようです。
確かに、これまでのICTの普及・発展は経済的豊かさの提供が中心でした。しかし、それは、時間に追われる、情報過多、ストレスの発生などを生んでいます。「経済的豊かさ」と「心の豊かさ」は決してイコールではないのです。
今後の課題は、人々を幸せにするICTの発展である必要があるでしょう。
「心の豊かさ」への取り組みをお願いしまして、私の講演を終わりにさせていただきます。