会員紹介 福岡市
新たな時代の都市インフラに
無料公衆無線LANサービス「Fukuoka City Wi-Fi」
福岡市市長室広報戦略室広報課
福岡市はアジアの主要都市に近く、空路や海路によるアクセスも充実しており、国際空港、主要駅、港が半径2.5km圏内にあるコンパクトシティである。また、主な産業は卸売、小売業やサービス業などの第3次産業で、従事者が9割を超えている。このような特性を踏まえ、国内外から人を呼び込み、消費の拡大を図る「交流人口増」を「短期的な成長戦略」と位置づけ、観光客やMICEの誘致に力を入れている。
公衆無線LANサービス導入の経緯
交流人口増に向けた取り組みとして、まず注目したのが無料Wi-Fi環境の整備である。
2011年度の観光庁「外国人旅行者に対するアンケート調査結果」によると、訪日外国人客が、日本国内を旅行中に困ったこととして最も多く挙げたのが「無料Wi-Fi環境」の少なさであった。そこで本市では、Wi-Fi環境の充実が来街者への「おもてなし」として都市の大きな魅力向上につながり、同時にSNSなどの利用によりリアルな福岡の情報が世界中に発信・拡散されることで、さらなる旅行者を引き寄せる誘客効果が期待できると考えた。
2011年4月、「福岡市公衆無線LANの環境整備に関する検討会議」を設置し、行政としての「Wi-Fi環境整備の考え方や望ましい方向性」について検討を行った。その結果を踏まえ、来街者の利便性向上等を目的として、2012年4月から、福岡市無料Wi-Fiサービス「Fukuoka City Wi-Fi」を開始した。
事業拡大に向けた戦略
市が先導的に無料Wi-Fiサービスの導入を進めることで、民間における整備促進を誘導することとし、公共施設は行政が、民間施設は民間が整備・運営するという「官民共働」を方針に掲げ、整備を推進した。また、経費を抑制するため、既存Wi-Fiサービスを提供している電気通信事業者のWi-Fiクラウド環境・設備を活用することとした。
Wi-Fi環境の整備と並行して、利用者数や拠点拡大に向けた広報戦略を展開した。例えば、市長自らが、経済界や業界団体の会合等において、Wi-Fi整備の必要性と本サービスの導入促進についてアピールした。また、市長会見や記者クラブへの投げ込み、メディア取材協力、業界紙への寄稿など、メディアへの露出を意識した広報を展開するとともに、市の広報紙やSNSなどの自主広報媒体を活用してPRを実施した。
市長会見
サービス実施による効果
戦略効果もあり、サービス開始以降、主要交通拠点をはじめ、公共施設や大型商業施設、宿泊施設等の民間施設において順次、拠点を拡大し、2017年7月1日現在、福岡市内および近郊106カ所(481アクセスポイント)でサービスを提供している。
また、サービス開始当初の1日当たりの認証回数は958回だったが、2017年5月現在では約17.6万回に増加。認証回数累計は約10,758万回となり、利用登録者数は約35.1万人、1日当たりの利用者が約3.7万人となるなど、多くの方にご利用いただくサービスへと成長している。
2014年から2015年にかけて開催された「地方のポテンシャルを活かすテレワークとWi-Fiの利活用に関する研究会(総務省)」において、本市を事例とした経済効果が試算された。それによると、2012年~2014年の3年間で、福岡市内での訪日外国人の消費額が約1億2,400万円増え、便益/費用は1.4程度とされている。
また、Wi-Fi環境整備をはじめ、交流人口の増加に向けて、観光客やMICEの誘致に取り組んだ結果、訪日外国人を含む入込観光客数やMICE開催件数、外国クルーズ船寄港回数等は伸び続けている。
・2015年入込観光客数約1,974万人
※4年連続過去最高を更新
・2016年福岡空港・博多港からの外国人入国者数 約257万人
※5年連続過去最高を更新
・2015年国際会議開催件数363回
※7年連続で東京に次ぐ2位
・2016年クルーズ船寄港回数(速報値)328回
※過去最高を更新、全国1位
今後の方向性と新たな取り組み
Wi-Fiを活用した新たな取り組みとして、以下の4つの観点から検討を行っている。
(1)持続可能な運用モデルの確立
Wi-Fi環境を活用した新たな歳入源の確保を目的として、「Fukuoka City Wi-Fi」に接続すると表示される情報バナーをクリック型広告として販売する広告事業を、実証実験として開始している。今後、広告媒体としての価値を上げることにより、歳入の確保を図り、運用経費の一部に充てるなど、持続可能な運用モデルの構築を目指す。
(2)Wi-Fiを活用した情報発信の強化
Wi-Fiを通信インフラとして、最新のICT技術と組み合わせた新たな情報発信のあり方を研究・検討している。その一環として、Wi-Fi・デジタルサイネージ・ビーコン・アプリの連動による緊急情報発信のデモンストレーションや博物館におけるビーコンを活用した展示案内等を実施した。
また、2016年10月にはLINE(株)と情報発信に関する連携協定を締結し、2017年4月より「防災」「ごみの日」「子育て」などの中から、市民が選択した情報だけをアプリを使ってタイムリーに受け取ることができるサービスを開始。同年6月末現在の友だち登録数は約26万人となっている。
LINE(株)との情報発信強化に関する連携協定締結式
(3)他のWi-Fiサービスとの認証連携
他のWi-Fi提供事業者とサービスの相互利用に関する協定を締結し、一度利用登録すると再登録やWi-Fi接続アプリの必要なく、相互に利用できる「認証連携」を推進している。
現在、大分市・別府市・由布市が運営する「Onsen Oita Wi-Fi City」と、西日本鉄道株式会社が運営する「Nishitetsu Bus Free Wi-Fi」と認証連携している。また、今年の7月22日から同社の「Nishitetsu Train Free Wi-Fi」とも開始を予定している。
今後も、誰もが簡単に利用できるWi-Fiネットワークの実現を目指し、引き続き、他のWi-Fi提供事業者への働きかけを進めていく。
福岡市・大分市・別府市・由布市 連携協定式
(4)Wi-Fiから得られるデータの利活用
Wi-Fiから得られるデータを分析して、その結果をエビデンスとして市の施策に反映させ、PDCAサイクルを構築する、いわゆる「ビッグデータ活用」を検討している。具体的な実証モデルとして、2017年3月から、「Fukuoka City Wi-Fi」を活用した観光PR施策による回遊促進効果測定を開始した。施設やイベント等の情報を配信し、バナーの表示回数やクリック回数、利用状況等のデータを収集・分析することで、集客や利用者の回遊状況等を検証し、今後のPR手法や観光ルート造成等に活用していくこととしている。今回の実施結果は、今年の夏頃を目途に報告書を公表する予定である。
福岡市では、Wi-Fi環境を「新しい時代の都市インフラ」ととらえ、今後もさらなる利便性向上に向けたサービスの充実を図っていくとともに、Wi-Fi環境を活用した新しい事例に積極的にチャレンジしていく。
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