ビジネス情報
iPhone登場から10年、その変化を考える

無線LANビジネス推進連絡会会長 小林忠男

「今日は同じくらい革命的な製品を3つ、紹介する。まず最初は、タッチコントロール機能を持つワイドスクリーンのiPodだ。2番目は、革命的な携帯電話。そして3番目。インターネットコミュニケーション用の画期的な機器だ」
この3つを繰り返して強調した後、
「分からないかい?3つに分かれているわけじゃないんだ。じつはひとつ。iPhoneっていうんだ」

(ウォルターアイザックソン著 「スティーブ・ジョブス」第35章から)


「All in One」端末の衝撃

スティーブ・ジョブスが2007年1月に行った有名なプレゼンテーションの5か月後の2007年6月にiPhoneが登場し米国で販売開始されてからあっという間に10年が経過しました。
日本で使えるようになったのは2008年からなので日本登場からは正確に言うと9年になります。

図1に示すように、それまでは別々の端末として存在していたものが「All in One」端末として一台に機能集約され、メール送受信、ネット接続、音楽・動画視聴、カメラ、ゲーム、ナビゲーションを一台で楽しむことが出来るようになりました。

さらにFacebook、ツイッター、インスタグラム等のSNS、15億人を超える視聴者と1分ごとに400時間分の動画が世界中から投稿されるYouTube、LINE、ウーバー、フィンテック等のスマホを使ったOTTの出現により携帯電話ビジネスに劇的なパラダイムシフトが起きました。

日本で発売されたiPhoneを初めて手の中におさめ、使ったときの興奮を今でも明瞭に覚えています。今では、私は毎日起きてから寝るまでiPhoneを手放さすことなく使い、ほとんど不満がありませんが、販売当初は今のように完全なものではありませんでした。

例えば、Yahoo!動画はWi-Fi接続時のみ閲覧可能で、3G接続時はコンテンツが少なく、またコマ落ちが激しく発生し満足に視聴するにはほど遠いものでした。

WEBブラウジングもSafari上では、FlashPlayer未対応のため動画やFlashが組み込まれたサイトは閲覧できませんでした。常に使うメールも設定がわかりにくく、即時受信をしないので細かい会話をやり取りするようなケータイメールとしての使用用途では厳しい状況でした。

お財布ケータイ、QRコード読み込み、動画撮影、単語登録、携帯専用サイト閲覧など最初は出来ませんでしたが、iPodtouchと同じように触っていて面白い、今までにない興奮を感じる、それまでの携帯にない、とにかく「モノ」としての魅力を強く感じました。

固定と移動の融合を実現

Wi-Fiビジネスに携わっている人間として、iPodtouchと同じようにWi-Fiがデフォルトで搭載され、図2に示すように、設定画面に携帯電話(iPhoneの表記は「モバイルデータ通信」)より上位にWi-Fiがあり、Wi-Fiと携帯電話が自動で切り替わるシームレス環境を実現し、家に帰ると携帯電話から自動的にWi-Fiに切り替わりました。

長い間、言われて実現しなかった、固定と移動の融合「FMC」の実現の瞬間でした。Wi-Fiと携帯電話が同等の扱いで使える顧客志向の端末になっていることに感激しました。


日本の携帯電話は機能の建て増し住宅のような作りだ。そして、そのつじつまを階層の深いメニューで何とか合わせている状況に陥っている。これに対してiPhoneはゼロから最新の機能を整理して盛り込みつつ、見通しよく設計されているため、ほかのメーカーが対抗機種を開発するには既存の設計を一度破棄して最初からやり直すくらいの思い切った過去との決別が求められる。
(MacPeople2008年8号)


この記事が述べている内容を如実に表している具体例を一つ説明します。
当時のiPhoneと日本の携帯電話のWi-Fi設定までの手順比較を図3に、Wi-Fi設定後の公衆無線LANサービス利用手順比較を図4に示します。

Wi-Fi設定まで(図3)と、Wi-Fi設定後からブラウジングまで(図4)の手順において、携帯電話の手順が極めて多いことが分かります。

如何にiPhoneがユーザーの立場になって端末の操作性を考え開発していることが良く分かりました。逆に、携帯電話の手順の煩雑さを見ると、ユーザーにWi-Fiは使うなと言っているに等しいと感じました。

端末としての今までにない限りない魅力と可能性、誰もが参加可能なApp StoreやiTunes Storeの垂直統合的なビジネスモデル、絶え間ない端末としての進化によりiPhoneが先鞭を切ったスマートフォンの市場はガラケーと呼ばれる携帯電話をあっという間に上回りました。

関連機器市場を取り込んで伸長

図5にスマートフォンと携帯電話の販売数比率を、図6にスマートフォンの2012年からの販売台数を示します。

図5に示すように2007年には約100%だった携帯電話の販売比率が現在約10%まで低下してしまいました。

図7はスマートフォンの出現により市場から消えていったメーカーと新たな勢力として台頭したメーカーを示しています。
iPhone登場時の携帯電話メーカーの主役はノキアやブラックベリーでした。

スペインのBarcelonaで毎年開催される「Mobile World Congress」のノキアのブースは異常な人だかりで端末に触るのも一苦労なほど人気がありましたが現在は見る影もありません。日本の端末メーカーも国内で細々と販売していますが、サムソンやHUAWEIのまえでは同様に見る影もありません。
スマートフォンが様々な機能を持つ「All in One」端末であることの衝撃は様々なビジネスに大きな影響を与えています。

図8は、スマホ10年のインパクトを示しています。

薄型テレビ、デジタルカメラ、音響機器、音楽ソフト、パソコン、電子機器の出荷額、出荷台数等は減少し、逆に、電子書籍、動画配信、ネット広告、ソフトウェアの市場は大きく成長しました。

因みに、Wi-Fiチップのこれまでの出荷総数は、2016年末に150億ユニットを超え、2016年一年間で30億ユニットを超えたと言われています。2001年の一年間の総出荷数が800万ユニットでしたので、2016年は毎日2001年の年間出荷数が出荷されたことになります。


<参考>
キャリアとのしがらみがなく、アップル自らが信じる機能性だけを実現したiPhoneでは、3G回線を使おうが、WiFiを使おうが接続先はフルスペックのインターネットである。そういう意味ではiPhoneに聖域はなく、今後ともキャリアの都合は無視して、アップルが理想とする情報環境を作り上げるために、必要と思われる機能やサービスを次々と実現していくだろう。
おそらく、既存システムの限界をいちばんよくわかっているのは、ほかならぬ日本のキャリアたちであろう。しかし、もしも端末の企画や開発をメーカー主導に切り替えれば、従来のような携帯ビジネスの総元締めとしてのキャリアの存在感は薄れていく。あるいは、事業収益のかなりの部分を占めるネットアクセスの囲い込みをやめるという方法もあるが、スマートフォンのようにインターネットに自在にアクセスできる端末は自らの首を絞めかねない。
ところが、多機種に目をむけてみるとこれはコダックや富士フィルムなどの銀塩フィルムメーカーがデジタルカメラを事業に組み込む際に味わった葛藤と同じことなのである。自社のメインビジネスの一部を切り捨てながら新しいビジネスモデルを構築し、その中で収益をあげる方法を見つけていかなくてはならない。

(MacFan 2008年8月号)


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