電波の話
Wi-FiとWiMAXに見る
アンライセンスバンドとライセンスバンドのビジネスモデルの違い
無線LANビジネス推進連絡会会長 小林忠男
電波は有限の公共の財産であるため、各国の政府機関が用途ごとに周波数を割り当てそれに基づいて様々な使用者が電波を使っています。電波の利用にあたって忘れてならない規則があります。それは、国の免許が必要な場合(ライセンス)と免許が不要な場合(アンライセンス)があるということです。
今回は、電波免許が必要なWiMAXと電波免許不要のWi-Fiのビジネスがどのような展開をたどったのか考えてみます。
インテル「セントリーノ」の成功
2000年初頭、公衆無線LANビジネスを何とか自立できるようにするため四苦八苦していた時に、Wi-Fiを搭載したインテルのセントリーノの登場は衝撃的でした。これがノートPCにデフォルトで搭載されたお蔭で、公衆無線LANビジネスは潰れずに済んだといっても過言ではないと思っています。
電池がすぐに切れ重かったパソコンがノートPCになり、鞄に入れて持ち運びすることが可能になり、カバンの中のノートPCが喫茶店にWi-Fiがあればすぐにオフィスや書斎になりました。セントリーノのお蔭で、当時の携帯電話よりもはるかに高速なインターネット通信がWi-Fiで可能になりました。
当時の3G携帯電話はそれほど高速ではなく料金も従量制だったので、時間を気にしないで高速インターネット通信が可能なWi-Fiは料金を気にせず使うことができとても快適なものでした。
また、家庭やオフィスにおいてもわざわざ無線LANカードを買わなければインターネット接続できませんでしたが、セントリーノ搭載のノートPCを買えばその場で接続できるようになりました。
インテルの凄いところはすべてのパソコンに搭載する決断をしたことであり、セントリーノ開発・商品化はインテルにとって画期的な大成功でした。
WiMAX伸び悩みの理由は
Wi-Fiの次にインテルをはじめとする世界のメーカー、キャリアが取り組んだワイヤレスシステムがWiMAXでした。
セントリーノの次のサクセスストーリーを狙って多くのプレーヤーがこのビジネスに参入しましたが、結果はセントリーノのようにはうまくいきませんでした。
現在、WiMAXサービスを提供している会社は日本のUQコミュニケーションだけではないでしょうか。
何故、うまくいかなかったか。
Wi-Fiはアンライセンスバンドで誰もが勝手に家やオフィスや公衆スポットにセントリーノ搭載のノートPCがつながるアクセスポイントを設置することが出来ました。
家やオフィスのプライベート空間でWi-Fiを使いたい人がアクセスポイントを家電量販店から購入し設置すればすぐに使えます。しかも面的なエリア展開も必要ないから比較的簡単にできます。
手ごろなアクセスポイントとWi-Fi搭載の端末を提供すればOKです。例えば、インテルがそれに多くのリソースを投入すればそれに比例してリターンはあります。
しかし、面的にエリアを構築するには膨大な投資が必要になります。その投資は電波免許を獲得したキャリアが行うことになります。
電波を使うビジネスの場合は、加入者がゼロの時に全エリアのインフラを短期間に構築しなければなりません。
WiMAXの電波はライセンスバンドなので電波免許を受け限られた貴重な電波資源を占有するため、Wi-Fiとは違って面的にエリア構築しなければなりません。
ライセンスの電波を使うビジネスの成否は、電波免許を受けインフラを構築するキャリアと、端末、チップを開発製造するメーカーが一体的になって取り組まないと成功しないビジネスモデルになっています。
また、WiMAXビジネスを行うキャリアにとって、自らが他のモバイルビジネスを行っていたり、親会社が競合するビジネスを行っている場合は、そのバランスをどうするかの葛藤が必ず発生し中途半端な結果に終わることが多々あります。
端末メーカーやチップベンダーが膨大なリソースを投入して努力してもキャリアがその気にならなければビジネスとして成功するのは難しくなります。
iPhoneは既にインフラが構築されていた3GやWi-Fiをうまく活用することによって成功したのではないでしょうか。
これからサービスが始まる第5世代モバイルシステム(以下、5G)のビジネスはどうなるでしょうか。
どちらかというとキャリアよりメーカーがその実用化に前向きに取り組んでおり、キャリアはその後を追っているような気もしますので同じ轍を踏まないか気になりますが、5Gはこれまでのワイヤレスシステムとは全く違う、進化したシステムになるようです。
キャリア、インフラ・端末メーカー、チップベンダー、システムインテグレーター、コンテンツプロバーダー等々の関連企業のアイデアと英知が結合したサービスになると思います。
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